パンデミック後の日常生活(通貨編):「The Last of Us」

Part I
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パンデミック後の通貨

衣食住を扱った前回の記事に続いて、今回はパンデミック後の日常生活における通貨について考察していきます。

通貨

現代社会を生きる上で通貨の概念は必要不可欠ですが、ポストアポカリプスやサバイバルをテーマにした作品ではむしろ通貨が存在しないことのほうが多いようです。The Last of Usの世界でも通貨が登場することはありませんが、テスは情報を得る対価として配給カードを渡したほか、隔離地域内のスラム街には商店がありました。

ジョエルとテスがロバートを追って足を踏み入れるスラム街には衣服と靴を売る店や鳥か何かの肉を焼いている店があり、さらには檻の中にいる犬も商品になっています。

触ったら買え、と凄んでくる店主がいる商店街のような店の一角ではカセットコンロやポリタンクが売られていました。これらは配給カードを通貨として購入することができるようです。衣服と靴を売る店にジョエルが近づくと、「配給カードがないならどこかに行って」と言われるだけでなく、犬を売る店には「15tickets, each!(1頭!)」という看板があります。

これらを根拠として、少なくともこのスラム街では配給カードが軍からの配給を受けるだけのものではなくこの区域だけで通用する地域通貨としても活用されていることが分かります。

食料を受け取るための配給カードで鳥の肉を買うのは一見すると不自然ですが、これは金融街のハンターと同じように嗜好品として肉が食べたい人がいる故に商売として成立していると見られます。実際、並んでいる住民は「俺はこれをずっと待ってたんだ」と声を荒げています。

配給制度と通貨制度の両立

よく言われることですが、現代社会で流通している貨幣はそれ自体に意味はなく、信頼によって価値が生まれます。日本銀行が発行する一万円札はその物体だけを見ればただの紙でしかありませんが、日本政府が一万円の価値があると保証しているからこそ通貨として機能しています。例えば、その辺りに転がっている板や釘でもそれが通貨として利用できるという共通認識とそれを裏付ける信頼があれば通貨として機能するのです。少なくともこのスラム街においては、例えば配給カード15枚で大型犬が一頭買えるという価値を持つの地域通貨になっているのです。

食料に限った配給制度(厳密には食料が市場価格より安く買えるという制度)が実施されている現実世界のキューバでは、食料以外の物資は法定通貨で購入します。また、2010年に大地震が発生したハイチでは緊急食料配給が行われ、配給券と食料を交換するだけでなく配給券が通貨の役割を担い不足物資を購入できたとのことです。

配給券1枚を、袋入りの約25キロの米と引き換えられる。消費者は、米よりも配給券のほうが安全に保管できる。援助機関は監視の行き届いた数少ない配給所に米を貯蔵しながら、配給券を広く分配できる。この配給券も通貨となって、他の乏しい物品と交換できた。

幻冬舎GOLS ONLINE: 経済力を持つ国々が「法定通貨」を利用するという不思議より

当時のハイチでは一般市民が公共の仕事をすると給与として法定通貨を受け取れるという制度もあったようですが、作中世界の隔離地域では召集を大げさなほど嫌がる市民が登場しているのでそういった制度はないと考えられます。いずれにせよ、配給制度と通貨制度の両立は出来るという証左になっています。

地域通貨として機能する配給カードと作中世界の価値観

一般的に配給は一回で数日分、もしくは数週間分の食料が渡されます。先に挙げた現実世界のキューバでは1ヶ月に一回です。作中世界のボストン隔離地域では、配給の列に並ぶ人々の会話から察するに週一回の配給、つまり一回の配給で一週間分の食料を受け取ることができますが、一枚の配給カードで一回の配給が受けられるという制度だとするとあまりに非効率です。

そのため、一枚の配給カードで数回分、合理的に考えれば1ヶ月分の配給が受けられる仕組みになっているのではないでしょうか。例えば、現実世界における一昔前のポイントカードのように未使用の配給カードには四つの空欄があり、一回の配給を受けるたびにスタンプが押されるという仕組みになっていると推測できます。そして、残りの空欄の数によって地域通貨としての配給カードの価値が決まるのです。

テスはスラム街で周囲の様子を探らせた男の子とロバートの行方を聞いた情報屋とおぼしき相手に報酬として配給カードを渡しています。テスはおそらく未使用の配給カードではなく残り回数が少ないカードを渡していたはずですが、残りの配給回数が一回(一週間分の食料)となったカードだとしても報酬が過剰であるように感じます。しかしそれは現実世界に生きるプレイヤーの視点であって、文明崩壊後の作中世界を生きる登場人物とは価値観が異なります。スラム街、ひいては隔離地域においては情報が大きな価値を持っていて、一言二言の話であっても内容によっては一週間分の食料に相当する価値があるということなのでしょう。ちなみに、男の子もロバートの行方を聞いた相手も受け取った配給カードの中身を確認していませんが、それは顔が広いテスに対して信頼があるからだと考えられます。

パンデミック後の贅沢品

配給カードが地域通貨として機能していることが作中で描かれているのはスラム街だけですが、ここで物価が分かるのは犬を売っている店です。先述したとおり「15tickets, each!(1頭!)」という看板が掲げられており、配給カード15枚で犬一頭という価値になっています。作中世界において未使用の配給カード15枚というとおそらく60週分の配給が受けられる量であり、非常に高額な印象です。しかし、作中世界の地域通貨としての配給カードと現実世界の法定通貨の価値を同列に考えることはできません。

作中世界の配給カードは地域通貨として機能しているとはいえ、市中の物資そのものが不足している状態です。そのためどれだけ地域通貨を持っていても欲しいものが存在しないため買うことはできず、結局は配給を受け取るために使うしかありません。しかし当然のことながら食料は食べられる量に限度があり、保存可能な缶詰やレトルト食品にしても管理に大きな不安がつきまといます。つまり、地域通貨を貯め込んでいても意味が無く、余剰分は使ってしまうほうが得策なのです。

では配給カードを多く持っているこの世界におけるお金持ちは余剰分で何を買うか?ということを考える前に、この世界におけるお金持ちとはどういった人かを考えます。一般市民は軍事政権による配給を受けるだけで自分で稼ぐ術を持たない人でしょう。そういった人はお金持ちにはなり得ません。お金持ちになり得るのは、自分の仕事を持つ人、つまりジョエルやテス、ロバートのような人たちです。こういった人たちは市民に支給される配給カードの他に自分の仕事で収入を得ることができ、その分を嗜好品や贅沢品の購入に充てていると想像できます。ジョエルとテスは運び屋なので、業務の一環として仕入れたはずの高級スコッチを自分たちのものにしたように欲しいものは自力で入手することも可能です。

自力で物資を調達できない仕事をしているお金持ちは、余剰資金の使い途として運び屋が隔離地域外から密輸入してくる嗜好品のウイスキーや自分の身を守るための武器弾薬、医薬品など生活必需品ではないものに目を向けることになるでしょう。おそらく配給で手に入らない密輸入品は相当な高額商品です。隔離区域を抜け出すだけで軍に追われるだけでなく、抜け出した先では感染者に遭遇する危険もあるという命がけの仕事に見合う値付けがされるでしょう。だからこそ調達屋のビルは十分な食事を摂ることが出来ているのです。

そして、作中世界でブリーダーを生業とする人がいるのならば相当に珍しい存在です。現実世界でも大型犬は数十万円の値段が付くことがあり、血統や毛並みの良さの代わりに警戒心や攻撃性の高さが評価されるであろう状況において、希少性を加味すれば作中世界の犬は現実世界の犬と比べてより価値が高いという見方も出来るはずです。スラム街で売られている犬は大型犬であり商売敵や感染者に対する番犬として役立つことから価値が認められ、配給カードを持て余しているお金持ちや商売上の理由で犬を必要としている人が購買層になる高額商品として商売が成り立っているのかもしれません。

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